2017年6月TOP500 スパコンランキング | PGDブログ

2017年6月のTOP500スパコンランキングが発表され、1位を中国江蘇省無錫市の国立スーパーコンピュータセンターの「神威太湖之光(Sunway TaihuLight)」が、2位を中国国防科学技術大学(NUDT)の「天河2号(Tianhe-2)」が独占したそうで、トップ100の顔ぶれを見ても、中国の数が米国を抜いてトップになるなど、中国が「スパコン世界1位」の地位を固めつつある状況だ。

この記事に関してググった際、見つけたクソ記事がこれ。

中国「スパコン世界1位」に見え隠れするパクリ国家の限界 - まぐまぐニュース!

黄文雄という評論家を取材した上で、中国が「スパコン世界1位」だとは言っても、実態は大したことはないよ、という趣旨の記事となっているのだが、その結論を導き出す論理が、素人丸出しで、滅茶苦茶なのだ。

黄文雄 (評論家) - Wikipedia

黄文雄という方については、著作も読んだことがなく、どんな方は知らないが、プロフィールを読む限り、台湾出身、日本在住。
専攻は西洋経済史で、現在は拓殖大学日本文化研究所客員教授とのことで、少なくとも、ITや科学技術に関して専門家ではなさそうだ。

実際、この記事で述べられる論拠と論理展開は、理系人間にとってはデタラメもいいところで、これをもって堂々と「中国スパコン、恐るべからず」という結論を出すのは、恥ずかし過ぎる。

具体的に、記事において、「中国のスパコンは凄くない」という論拠とロジックを、記事からピックアップしてみよう。

加えて中国のスパコンが核兵器開発に関与している可能性があるということで、昨年、米商務省がインテルなどに最新型CPUの輸出を禁じました。そこで中国は内製に転じて、今回、CPUを独自開発して世界一となったというわけです。

これをもって「中国の技術力はすごい」という報道もあるようですが、はたしてそうでしょうか。日本の「京」も国産CPUですし、中国は2000年から独自のCPU開発をしてきましたので、特段、驚くべきことではありません。

まず、「京」のCPUは、富士通が開発したものだが、アーキテクチャはサン・マイクロシステムズが開発したSPARCベースであり、設計は純粋な国産ではない。

【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】世界最速スパコン中国「神威太湖之光」のCPU「SW26010」の概要 ~PS3の「Cell B.E.」と似た設計 - PC Watch

一方、中国は、一世代前の「天河2号」は、インテルのサーバ用CPU「Xeon」を使っていたので、CPUに関しては独自性なかったのだが、最新の「神威太湖之光」のCPU「Shenwei 26010 (SW26010)」は、命令セットも独自性があり、オリジナル設計と見てよい。

現在、システムLSIのロジックは、ハードウェア記述言語で書かれたIPコアという著作物で部品化されており、CPUがARMアーキテクチャであればARMのIPコアを、USBインタフェースを内蔵したければNECの持つIPコアのライセンスを受けるなどして、組み合わせて一つのLSIにまとめ上げるのが普通だが、「神威太湖之光」のCPUに関しては、どこかのCPUのIPコアのライセンスを受けたという情報もなく、学会発表での概要を見ても、独自でIPコアを開発したと見るのが妥当だろう。

また、インテルも中国でCPUを生産してきましたから、基本技術自体は中国にパクられていたはずです。

どこから指摘したらいいのか分からないほど酷い。
そもそもだが、インテルのCPUが、中国で設計、製造された実績はどこにもない。それに、たとえ生産実績があったとしても、パクるなんて無理。
現代では、IPコアを組み合わせて、それをコンパイルすることで、最終的にLSIの配線図が生成され、それに基づきLSIを製造するが、最終的に製造する配線図から、高級言語で書かれた元のIPコアをリバースエンジニアリングするのは不可能であり、記事のように「インテルが中国でCPUを生産してきたから、中国がインテルの基本技術自体をパクることができたはず」というのは、技術的にあり得ない話だ。
中国が、インテルのIPコアそのものを盗めばクローンを作るのは不可能ではないかもしれないが、そもそも「神威太湖之光」のアーキテクチャはむしろPS3のCELLに近く、インテルとは掛け離れており、インテルの話を持ち出してくること自体、的外れもいいところ。